挑戦が根づく組織の『土壌』を耕す方法 <後編>

組織の「土壌」が挑戦の芽を育てるとして、ではどうやって耕せばいいのでしょうか?
自然の土壌も同じですが、組織の土壌も「ほうっておけば育つ」ものではありません。むしろ、放置された土壌は硬くなり、空気も水も通らなくなります。長年の習慣や思い込み、上下関係、無意識のルールが堆積し、人の声や意欲を遮断してしまうのです。
耕すとは、そうした見えない“硬さ”をほぐし、新たな空気を送り込み、水脈を通し、循環させていく行為です。ここからは、組織における「耕す」プロセスを3つの視点から整理します。
組織の土壌の耕し方
1. 固まったメンタルモデルをほぐす
組織文化を変えようとする際、多くの人が見落とすのは、「目に見える行動」よりも「目に見えない前提」「暗黙の習慣」が強固に組織を形づくっているということです。たとえば、
- 「うちはこういう会社だから」
- 「若手はまず現場を学ぶべき」
- 「上に意見しても無駄」
といった言葉に表れる“メンタルモデル”は、まるで硬い岩盤のように組織の挑戦を阻みます。
これを耕すには、対話が必要です。ただの議論ではありません。価値観や背景、経験を持ち寄って語り合い、「私たちはなぜ、こういう振る舞いをしているのか?」と根っこを探る場が必要です。
2. センスメイキングによる意味の再構築
耕すプロセスには、「意味づけ」の再編集も欠かせません。人は“意味がある”と思えることにはエネルギーを注げますが、“意味がない”と思うことには従来の枠からはみ出すことをためらいます。
ここで有効なのが、センスメイキングという考え方です。
カールワイク氏は、私たちが世界をどう理解し、行動を選択しているかを「意味づけのプロセス」と捉えました。新しい文脈の中で、「これは何のためにあるのか?」「自分たちは何者なのか?」を捉え直す作業は、組織の空気や態度を少しずつ変えていきます。

3. 余白と実験をつくる
耕すには、実験的な余白も重要です。全体をいきなり変えようとするのではなく、小さな部分から試してみる、そしてその結果を観察し、周囲にフィードバックしていく。この「学習する組織」のアプローチが有効です。
ピーター・センゲが提唱した「学習する組織」では、個人の自己マスタリーと、チームとしてのシステム思考、共通のビジョン、対話の力が鍵とされます。組織の一部にそうした“耕されたゾーン”が生まれると、それが周囲に波及していくことになります。
挑戦を歓迎する文化:リクルートの場合
私は、リクルート出身なので、少しリクルートの事例にも触れたいと思います。リクルートは、しばしば「挑戦の文化」を語るときに引き合いに出される企業かと思います。なぜだろうか?を考えてみるといくつかの要素に思い上がります。
まずひとつめに、ミッションドリブンかつ「問い直し」による挑戦の文化です。
リクルートは、既存事業が成長しているときですら、「そもそもこの形でよいのか?」「もっと本質的な価値提供ができるのでは?」という問いを自らに投げかけ、自社のモデルを壊すことを厭いません。「事業の最適化」という意味だけでなく、「価値の再定義」を常に求めるスタンスがあります。
そして、その挑戦をし続ける上での、越境と抜擢が日常にあるという構造です。
「やってみたい」と声を上げれば、年次に関係なく新しい領域を任される。職種をまたいだ異動や、まったく未経験の業務へのチャレンジも応援されていました。組織構造上は縦割り、もしくはマトリックス型の組織になっていますが、職種や部門を超えて、口を出すことは日頃から普通に見られる風景でした。良いものを作り上げるためには、挑戦が必要であり、多角的な視野や意見が必要だということが暗黙知であったようにも思います。
これらの仕組みを支えるのが、個人の内発的動機です。
リクルートに対して強く感じることは、個々人の「内発的動機」の強さです。(むしろそれが全てと言っても過言ではないのでは笑)ただ、それぞれの内発的動機は、育まれることで、強くなっているとも思います。1on1や会議の場で「君はどう思う?」「なぜそう考えたのか?」という問いが繰り返される。上下関係を越えて意見を交わすことが推奨され、失敗しても「その経験は何を教えてくれたか?」という建設的な対話とフィードバックがあります。仕組みとしても、人材育成会議や異動申告制度など、個人の「やりたいことやチャレンジ」を言語化し、事業と接続させる機会が設計されているなど、「個人のWill」と「事業のWhy/What」を重ねることを意図した取り組みが随所にあります。そうしたソフトハードの両面からのアプローチがあってこそ、一人ひとりの内発的動機やリーダーシップが育まれ、“やらされ感”のない挑戦が当たり前のように生まれていくと感じるのです。
ここまで書いてみて、多少身内贔屓な視点があるかもしれませんが(卒業しても好きな会社なのです)、そこまでズレてはいないと思います。そして、やはり何よりも「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という思想はリクルートの行動原理として息づいていました。この信念は、これまでもこれからも変わらずにリクルートの根幹であって欲しいと願います。
最後に
ここまでお読みいただきありがとうございました。
「挑戦が根づく組織」の共通点を、土壌というメタファーを使って探ってきました。
- 土壌とは、目に見えない文化・関係性・心理的安全性などの総体であること
- 豊かな土壌には、「安心」「共有された目的」「柔軟な構造」「リーダーの姿勢」という“成分”があること
- それらは自然には育たず、「対話」「問い」「実験」を通じて、少しずつ耕されていくこと
このコラムが、皆さんのチームや組織の“土壌”に少しでも目を向けるきっかけになれば幸いです。
もし、組織に変化の兆しを感じたい、挑戦がもっと自然に根づく空気をつくりたいと感じたとき、最初の一歩は「問い」を持ち寄ることかもしれません。共に耕す仲間がいれば、土はもっと深く、豊かになっていくはずです。