<ATD2023 報告>アダム・グラント氏 Think Again: The Power of Knowing What You Don’t Know 

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ATD2023のキーノート(基調講演)について、連載していきます。

ATD(Association for Talent Development)とは、1944年に設立された世界最大の人材・組織開発に関するNPO団体です。そして、ATD国際会議&EXPO(ATD23)は、世界各国から10,000人を超える人材・組織開発のプロフェッショナルが集う、世界最大級の国際イベントです。今年はサンディエゴで開催されました。

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目次

ATD2023のキーノート(基調講演)

今年のキーノートスピーカーは、下記のお三方です。この記事では、ペンシルベニア大学ウォートン校教授のアダム・グラント(Adam Grant)氏のプレゼン概要を共有したいと思います。

アダム・グラント(Adam Grant)氏は、米国の心理学者、著作家、教育者であり、ペンシルバニア大学のウォートン経営大学院の教授です。著書「Give and Take: A Revolutionary Approach to Success」「Originals: How Non-Conformists Move the World」等。

アダム・グラント氏の基調講演は、昨年日本語訳された著書『THINK AGAIN』に沿った内容でのプレゼンでした。この『THINK AGAIN』は、変化の激しい現代において重要なスキルである「考え直す」ことに焦点を当てた本です。​​

​キーノートの始まりは、こんな出だしから始まります。

A lot of leaders are great thinkers, but they’re not  very good at rethinking.

多くの人は決めたことをRE THINKすることを嫌うが、RE THINKできないということは、Pivot=方向転換ができないということと同義でもあります。では、どうしたら良いRE THINKERになることができるか?というのが本講演のテーマでした。

1. Building a challenge network チャレンジネットワークを作る

ひとつ目に大事なことは、自分の周りにチャレンジネットワークを作ること。(ここでのチャレンジネットワークとは、チャレンジするために本当のことを話してくれるネットワークという意味で使われています。)

アダム・グラント氏のベストセラー『Give and Take』でも語られているGiver and Taker(与える人と搾取する人)、Agreeable and Disagreeable(協調性の高い人と協調性の低い人)ですが、注目したいのは、GiverでありDisagreeableの人としています。

Disagreeableのあり方で、反対意見や批判的な意見を言ってくれるGiverが、あなたの周りにどれくらいいるのか?特に企業の中では、そうした厳しい話を誠実にしてくれる人の存在は稀で、貴重であるはずである。そういう方こそが本当にロイヤリティの高い人でもあるのではないかということです。

2. Create Psychological Safety 心理的安全性の高いスペースを作る

そしてそのチャレンジネットワークを作るためにも、Psychological Safety=心理的安全性の高いスペースが必要だと続けています。(心理的安全性が高いとは、チームメンバーに避難される不安を感じることなく、安⼼して⾃⾝の意⾒を伝えることができる状態のことです。)

もし、あなたがリーダーで、メンバーに対して「問題を持ってくるな、解決策を持って来い!」と話しているならば、おそらく解決策や正解を持っていない人は何も話せなくなるでしょう、と。解決策でなくとも、問題のアラートをあげてくれるだけで大いに助けになります。つまり、炭鉱の中のカナリアで十分だとの話ですね。

また、問題があったら教えてくださいと言うだけでは、リーダーがどの程度本気でそう言っているのかが伝わらないため、課題があがってこないということも多くあります。では、どうしたら良いのか?

アダム・グラント氏は、出発点として、まず自分で自分のことを話すことだと言います。

2つ方法が語られました。ひとつは、自分に対しての最悪な内容を自分自身が率先してオープンにするというもの。アメリカの有名なTV番組を模して大学教授たちが実施した取り組み「教授自身が自分のクラスに対しての最悪なコメントを読み上げる企画」も紹介されました。またもうひとつは、自らフィードバックをもらいにいくというもの。「私とのミーティングの内容は1−10点で何点でしたか。10点に近づけるにはどうしたら良いか1つ2つフィードバックをください。」と質問する方法が紹介されました。いずれにしても、何を言っても良いのだというカルチャーを率先して作るということです。

3. Rethink your mindset マインドセットを変える

rethink
scientist mindset

多くの人は、この図の真ん中あたりにいるが、本来は一番上にある科学者のメンタリティが大切だとしています。

科学者のメンタリティとは、「仮説→実験→結果→検証」と考えていくものです。懐疑と疑問から始まり、自分の見解が間違っているかもしれない理由を能動的に探し、実験をし、失敗したら積極的に考えを改め、次に行こうというマインドです。

科学者の思考の有効性を示すものとして100名を超えるスタートアップの起業家が参加した実験も提示されました。ランダムに「科学者のように考えることを推奨したグループ」と「比較対照群」の2つに分けた結果、「比較対照群」の起業家の多くは、当初に発案した戦略と製品に執着し続けた一方で、「科学者のように考えることを推奨したグループ」は「比較対照群」と比べて倍以上の頻度で戦略を変え、ビジネスモデルも見直したようです。その結果、収益の差は47倍にもなったとのことです。科学者のように、自分の考えを懐疑的に思うことは、知らないことへの好奇心であり、謙虚さであり、知性であるということです。

最後に

ここまでキーノートの流れに沿って概要をお伝えしてきました。最後に、実際にサンディエゴで、リアル参加してみて受けたインパクトをJoseph Leeさんに聞いてみました。

Joseph Lee
Joseph Lee

コンサルティング会社KPMG(US)の日系企業部アドバイザリー代表パートナーとして活躍。退社後の過去12年間は、人間行動学に基づく育成プログラムを日本やグローバル大手企業に提供。客員教授としてClaremont Graduate University’s Drucker School, Pepperdine’s Graziadio School of Management, and Chuo University’s Graduate School of Strategic ManagementのMBA学科でも数年教員を務める。弊社とは、共にエグゼクティブ・リーダー向けの研修を行っている。

アダム・グラントさんの話で、何が一番のハイライトだと思いましたか。

おそらく最もインパクトがあったのは、彼が “なぜ仕事は最悪なのか?”という質問から始めたことでしょう。 そして、そのシンプルな答えは、”上司が最悪だから “です。 どんな上司が最悪なのか? 「問題を持ってくるな、解決策を持って来い!」と言うような人です。私たちは、どうすればより良いリーダーになれるかを学ぶことに多くの時間を費やしていますが、”どうすればより良い上司になれるか?”ということを考える人はほとんどいません。

彼が「科学者のように」に焦点を当てたのは、学習の重要な考え方のひとつである「好奇心」に立ち返ったものです。 私たちは「自分は間違っているかもしれない」と考えることは授業では教わりません。 正しいことをすること、自分のアイデアのために戦うこと、自分のアイデアを宣伝すること、そしてそれを守ることを教わります。が故に、 フィードバックを受け入れるだけでなく、積極的にフィードバックを求めて学ぼうとするリーダーは、おそらく経営者の中でも少ないのではないでしょうか。 

しかし、マネジメントの核となるのは、適応能力です。 適応力とは、周囲の状況を把握し、変化することから生まれます。 そのどちらの行動も、リーダーには、状況を教えてくれる仲間がいることが必要です。 すべてを見ることができるリーダーはいないし、すべてを知っているリーダーもいないのです。

Leeさんご自身は、どの話に納得感を持ちましたか?

アダム・グラント氏の議論の中に、リーダーのフィードバックの受け止め方に着目した部分がある。 話を聞こうとする人でも、部下との会話を「フィードバックありがとうございます。 これからもよろしくお願いします」と言って、終わらせてしまう。 アダム・グラント氏は、リーダーはもっと頑張る必要があると言っているのです。  リーダーは、自分自身に変革の責任を負わせる必要があるのです。 フィードバックを受けた後のフォローアップの質問は、”上達したと思いますか?” ではありません。 “どれだけフィードバックを受け入れ、それを行動に移せたか?”です。 議論は、もはや結果についてではなく、プロセスについてです。 私たちはプロセスの測定が苦手です。しかし、私たちが変わるためには、より良いリーダーになるためのプロセスにもっと焦点を当てる必要があるのです。

日本の人たちへ伝えたいこと

これらの考え方は、アメリカでもヨーロッパでもありません。 普遍的なものなのです。 日本のクライアントを訪問すると、多くの場合、マネージャーは日本の文化がいかに違うか、なぜアイデアのいくつかが機能しないかに焦点を当てます。 しかし、これらのことは、ヒューマンファクターなのです。なので、どんな文化圏の人であれ、すべての人に当てはまります。変わる人と変わらない人の違いはただ一つ、選択です。 外的要因でもなく、忙しさの問題でもなく、他の優先事項のせいでもありません。 単純なことです、変わろうとするかどうかの選択なのです。

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