<”センスメイキング” 対談・後編>センスメイキング・ループ®︎を用いた実践

sensemaking dialogue

この対談は、コンサルタントと大学教授の二足のわらじでご活躍されている手塚先生をお迎えし、LifeStocksの狩野と共にセンスメイキングについてお伝えしていくシリーズの後編です。

目次

センスメイキング・ループ®︎を用いた実践

インタビュアー:今回は、前回に引き続き、センスメイキングのプロセスについて詳しくお話を伺えればと思います。これは、組織やチームの成長に役立つ非常に面白い概念ですよね。

狩野:はい。ということで、センスメイキングの考え方はまさに今の組織で必要とされているものだと思い、ビジネスで活用するための具体的な手法として「センスメイキング・ループⓇ」をLifeStocksで独自開発しました。

最初に「物事に気づく」ってところからスタートして、次に「直感的な洞察を得る」、そして「方向性を選んで、それに意味を付ける」。その後、「共感と熱量を生み出して」、最後に「行動を起こして、みんなで一緒に作り上げる」という流れになります。このループが、また新たな気づきを生み出して、次のサイクルが始まるって感じですね。

sensemaking loop
sensemaking loop

手塚:例えば、みんなで喉が乾いている中でお茶を見つけたとします。それをセンスメイキングのプロセスにあてはめるとすると、「物事に気づく」で、お茶に気づく、「直感的な洞察を得る」で、いつのお茶だ?と探る、「方向性を選んで、それに意味を付ける」で、今朝だから大丈夫、お茶を飲もうとなり、「共感と熱量を生み出す」で、今朝だから大丈夫、みんなでお茶を飲もう、「行動し、共に創り上げる」で、実際にお茶を飲むという流れですね。

ものごとに気づく

インタビュアー:なるほど、わかりやすいです。それでは、最初のステップである「物事に気づく」についてもう少し具体的にお話しいただけますか?

手塚:そうですね、「物事に気づく」というのは、現象に気づくことが大事なんです。例えば、新しいツールを導入したとして、試行錯誤で使ってみると「これってこういう機能があったんだ」と気づくことがあります。実際に試してみないと、気づけないことって多いですから。犬も歩けば棒に当たるですね。

狩野:まさにそうですね。実際には、現場に行ってみたり、普段の何気ない会話からも多くのヒントが得られたりするんですよ。「ちょっとしたやり取り」や「小さな気配り」から、大きな問題や改善のチャンスが見えてくることも多かったりしますよね。データだけに頼らず、実際に現場で肌で感じることもとても大事ですね。

直感的洞察を得る

インタビュアー:なるほど、動いてみることで初めて気づくこともあるんですね。次のステップの「直感的洞察」はいかがですか?どうやってその洞察を得るのでしょうか?

手塚ロジカルな定量分析だけではなく、インサイト(洞察)していくということですね。洞察を得るためには、まず多くの問いを投げかけることが大切ですね。「なぜこんなことが起きたのか?」とか、「この状況の裏にはどんな理由があるんだろう?」といった質問を繰り返すことで、表面的な情報だけじゃなくて、現象の奥にある本当の理由にたどり着けるんです。
ちなみに、洞察というのは「質問」ではなく「問い」だと捉えているのだけど、この2つの違いはなんだと思う?

狩野:イメージですけど、質問は正解がありそうで、問いは答えがないもの探究でしょうか。

手塚:そうそう、だから対話とかコーチングの手法が有用なんですよね。

狩野:問いを一緒に作るのもいいですよね。あとは、それに加えて、自分たちのバックグラウンドや視点を理解することで、もっと深い洞察が得られるようになります。自分の考え方の癖やバイアスに気づくことで、洞察の質も変わってきますね。

インタビュアー:つまり、ただ表面的に見るだけじゃなく、しっかりと問いを立てて考える。そして、自分たちの視点も見直すことで、より良い洞察が得られるということですね。では、その後の「方向性の選択」と「意味付け」のステップについて教えてください。

方向性を選択し、意味づけする

狩野:そうですね、方向性を選ぶときには、これまでの経験、成功や失敗、自分たちの強みや思いなども踏まえて、どの道が最善なのかを考えます。それと同時に、「この選択にはどんな意味があるのか?」、「未来にどうつながるのか?」をしっかりと考えて、チーム全体で共有することが大事です。

手塚:ここで意味をしっかり共有しておけば、次の「共感と熱量を生み出す」段階にスムーズに進むことができますね。

インタビュアー:なるほど。方向性の選択と意味付けが、次のステップに大きく影響するんですね。では、その「共感と熱量を生み出す」ためには、どのような方法が効果的なんでしょうか?

共感と熱量を生み出す

狩野:ここで大事になってくるのが「ストーリーテリング」ですね。リーダーが自分の洞察やビジョンをチームに語ることで、メンバーはそのビジョンに共感し、同じ方向に向かって進むためのエネルギーが生まれます。ただ単に「これが方向性だ」と言うだけじゃなく、そこにストーリーや感情を込めることが重要なんです。

手塚:例えば、リーダーチームだけで意味づけを行いリーダーがストーリーテリングするのと、関係者全員で意味づけから行うのとだと違いがあるかな?

狩野:チーム全員がその意味づけのプロセスに参加することが理想ではありますが、リーダーがストーリーテリングして、その後にみんなが自分の視点からストーリーを補完していくことでも十分に成り立ちます。いずれにしろ、意識を共有することで、より強い共感と一体感が生まれ、チーム全体が同じ目標に向かって一丸となるきっかけになります。

手塚:そうだね。例えば、オーナー社長の直感でインサイトして、これだ!と方向性づけて動かしていくオーナー社長もいるよね。

インタビュアー:ストーリーテリングでみんなが一緒の方向に向かうって、素晴らしいですね。それじゃあ、最後の「行動と共創」の段階について教えてください。どのようにしてチームで行動を起こし、一緒に作り上げていくんですか?

行動する

手塚:この段階では、今まで得た洞察や選んだ方向性を、実際に行動に移します。行動を起こすことで新たな気づきが生まれ、その気づきが次のループを始めるきっかけになるんです。行動が次のサイクルの扉を開けるという感じですね。

狩野:そして、行動は一人だけでやるのではなく、チームで行うとよいですよね。みんなで行動し、その結果を共有し合うことで、また次にどう進むべきかが見えてきます。このプロセスを繰り返すことで、チーム全体が常に成長し続けられるんです。

手塚:センスメイキングのプロセス自体も一度で終わるわけじゃなくて、何度も繰り返される「ループ」になっているんだよね。

センスメイキングの課題と未来

インタビュアー:ここまでの話で、センスメイキングの実践はとても大切であることを知りましたが、センスメイキングに何らか課題はあるのでしょうか?

狩野:そうですね、一番大きな課題は「バイアス」かなと思います。センスメイキングって、どうしても自分の知識や経験に基づいて行うので、知らず知らずのうちに自分の見方に偏ってしまうことがあるんです。例えば、ある出来事を自分のフィルターで意味づけしてしまって、そのまま誤った方向に進んでしまうことって結構ありますよね。

インタビュアー:なるほど。バイアスがあるからこそ、柔軟な対応や方向転換が重要だということですね。

狩野:その通りです。なのでプロセスを一度で終わらせるのではなく、ループを回し続けるんですよね。

インタビュアー:でも、すべてが曖昧な中で進めるのは難しいですよね?

手塚:確かにそうですね、特に調べれば分かることについては、ちゃんと調べるべきだと思います。分からない部分については、センスメイキングが有効ですが、まずはできる限りの調査や分析をして、それでも曖昧なところに対してセンスメイキングを活用するのが理想的ですね。そうすることで、リスクを減らしながら進めることができます。

狩野:最初から正解が分からなくても、進んでいく中で正しい方向に修正していけますしね。

インタビュアー:興味深いですね。その際に、やはり「他者との対話」が重要になるということでしょうか?

狩野:そうですね。センスメイキングは一人でやると、どうしても自分の先入観にとらわれがちなんですけど、他者と対話をすることで、新しい視点を得ることができます。

手塚:特に、対等な立場での対話が効果的ですね。上司と部下の関係だと、どうしてもバランスが偏りがちいなりますけど、対等な人同士だとお互いのバイアスを補い合えるんです。

狩野:そうそう。私たちのような第三者の外部ファシリテーターが入ると、さらに良いセンスメイキングができることが多くあります。外からの視点が入ることで、個人やグループのバイアスを超えた洞察が得られやすいんです。宣伝で恐縮ですが(笑)

インタビュアー:なるほど、他者とのやり取りや第三者の視点が鍵を握るんですね。ところで、最近はAIの活用がビジネスのいろんなところで進んでいますが、センスメイキングにもAIが関わってきているんでしょうか?

手塚:AIは、センスメイキングの可能性を大いに広げています。AIを使うと、大量のデータを解析して、そこから有益な洞察を得ることができる。ただ、最終的にそのデータをどう解釈するかっていう部分は、やはり人間がやらなきゃならないんです。AIはあくまでツールで、そこから得た情報をどう活かすかは、人間次第なんですよ。

狩野:AIが提供してくれるデータやアイデアは本当に役に立つんですけど、それを「どう意味付けるか」っていうのは人間の感性や経験ですし、実際の行動への落とし込みも人間が担わなければなりませんものね。

インタビュアー:つまり、AIはセンスメイキングを支援する役割を果たすけれども、最終的な判断は人間が行うということですね。非常に興味深いです。では、実行についてもお伺いしたいのですが、これもセンスメイキングの一部と言えるのでしょうか?

手塚:そうですね。戦略を立てること自体もセンスメイキングのプロセスですけど、結局大事なのは、その戦略をちゃんと実行に移すことなんですよね。どんなに優れた戦略でも、実行できなければ意味がありません。ここで必要なのが「行動」と「実行力」なんです。行動を通じて、最初に立てた戦略を修正しながら、正しい方向に進めていくことが大切です。

狩野:何もしなければ、どんなに素晴らしいアイデアや戦略もただの机上の空論ですものね。実行こそが現実を変える力ですね!

インタビュアー:行動が新たなセンスメイキングを生み出して、それがまた次のステップに繋がるということですね。前編後編でセンスメイキングについて、たくさんのヒントをいただきました。ありがとうございました。

手塚・狩野:ありがとうございました!

手塚貞治
元日本総研プリンシパル、コンサルタントとして30年近くにわたり経営戦略策定や組織改革を支援。現在は、國學院大學経済学部教授及び立教大学大学院ビジネススクール兼任講師として経営人財育成に従事。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。主な著書に『武器としての戦略フレームワーク』『経営戦略の基本』(以上、日本実業出版社)、『ジュニアボード・マネジメント』(PHP研究所)等。

よかったらシェアしてください!
  • URLをコピーしました!
目次