<”センスメイキング” 対談・前編>センスメイキングとは何か?いつ活用できるのか?

sensemaking dialogue

この対談は、コンサルタントと大学教授の二足のわらじでご活躍されている手塚先生をお迎えし、LifeStocksの狩野と共にセンスメイキングについてお伝えしていくシリーズの前編です。

インタビューアー:本日は「センスメイキング」についてお話を伺いたいと思います。まず最初に、お二人の自己紹介をお願いできますか?

手塚:私は30年近くコンサルティングの現場で成長企業の支援をしてきました。現在は大学に転身し、経営学を教えています。実務と理論の両方を経験している立場から、センスメイキングが企業にどう役立つのかお話できればと思っています。

狩野:私は人事や事業開発に20年携わり、現在は企業の人材マネジメントの支援をしています。現場での経験を基に、センスメイキングが組織やチームにどのような影響を与えるか、特にリーダーシップや組織論の観点からお話したいと思っています。

目次

センスメイキングとは何か

インタビュアー:ありがとうございます。まず、センスメイキングとは何かについてお話いただけますか?

手塚:センスメイキングという概念は、1960年代にカール・ワイクという組織心理学者によって提唱されました。センスメイキングとは、複雑な状況のなかで人々が意味を見出し、意思決定を行うためのプロセスです。特に、企業では経営者の思いや社員の視点が大きく影響し、それが組織の方向性を決定していくことが多いと感じています。

狩野:そうですね。私も現場での支援活動を通じて、経営者の思いが社員にどのように伝わり、組織全体がその影響を受けて変わっていくのを見てきました。センスメイキングのプロセスを通じて、経営者と社員の間に共通の理解が生まれ、組織としての方向性が統一されることがいかに大きなパワーを生むのか実感しています。
同時にセンスメイキングは、ただ状況を理解するだけでなく、組織のメンバーがその理解に基づいて行動を選択するプロセスでもあります。社員が自身の役割や組織のビジョンを理解し、納得感を持つことで、主体的に行動するようになります。この納得感が得られれば、個々のメンバーが同じ方向を向いて協力し合い、組織全体のパフォーマンスが向上します。

手塚:そうですね。私も、企業でのビジョン策定のコンサルティングにおいて、センスメイキングが重要な役割を果たしていると感じますね。特に、外部環境の変化に対応するためには、社員が自身の経験や知識を使って状況を理解し、適応する必要があるんですね。そのプロセスこそがセンスメイキングの核心だと思っています。

なぜ今の時代にセンスメイキングが重要なのか

インタビュアー:なぜ今の時代にセンスメイキングが特に重要視されているのでしょうか?

手塚:とても重要な質問ですね。センスメイキングが今特に求められている理由の一つは、経営環境がこれまでにないほど不確実で複雑なものになっているからだと思います。「VUCAの時代」という言葉は、耳にタコができるほど聞かされているかと思いますが、今わたしたちは、技術革新、グローバル化、そして市場の変動が急速に進行している時代に生きていますよね。例えば、AIの進化やデジタル技術の急激な発展により、従来のビジネスモデルや経営戦略が通用しなくなる場面が増えていますよね。また、パンデミックのような予期せぬ出来事が経済全体に影響を及ぼすこともあります。このような状況下では、これまでの「正解」や「既存の成功パターン」に依存していては、生き残ることが難しいわけです。

そうした不確実性に対しては、単なるデータ分析やロジカルな意思決定だけでは対応ができません。組織や個人がその都度新しい意味や理解を見出しながら、柔軟に対応していく必要があるんですね。これがセンスメイキングの本質です。組織としての共通の理解を築き、メンバーが一貫した行動を取れるようにするためには、環境の変化や新たな課題に対して常に意味を作り直していくプロセスが不可欠なわけです。

狩野:センスメイキングは、事業や組織が一貫して進化し続けるために重要ということですよね。リーダーシップにおいても、センスメイキングを念頭に置くのは有効です。というのも、リーダーは社員に対して「なぜこれをやっているのか」を説明するだけでなく、その理由や意味を組織全体で共有し、納得感を持って行動できるような文化を作るということも求められていると思うのですね。
でも、社員それぞれは異なるバックグラウンドや価値観、経験を持っているため、組織内での意味の共有がより難しくなっています。昔のように、トップダウンで一律の命令を出しても、全員が同じように理解し、同じ方向に進むということは期待しにくくなっています。なので、むしろ一人ひとりが状況を自分の立場や価値観に基づいて意味付けし、共通の方向性を持つことが重要になってくるのです。

手塚:その通りですね。たとえば、あるプロジェクトに対して「なぜこれをやるのか」という根本的な意味を理解し、それに共感できれば、自ら進んで貢献しようという意欲が高まりますよね。単に指示に従うだけではなく、自己決定感を持ちながら行動することで、より効果的な成果が期待できるというわけですね。

狩野:そうですそうです。現代の組織では、社員一人ひとりが自ら動機づけを持ち、自発的に行動することがますます重要になってきています。「上から指示を受けて動く」だけでなく、「自律的に行動する」必要があり、そのためには自分の役割や目標に意味を見出すことがひとつのきっかけになると思うのです。その意味を作り出すプロセスがセンスメイキングだと考えています。

手塚:あとは、技術の進化でしょうか。技術進化によって情報が爆発的に増加する中で、すべてのデータを正確に分析することは現実的に不可能です。そこで重要になるのが、情報の洪水の中から「何が重要で、どう行動すべきか」という意味を見出すセンスメイキングの力です。状況が刻々と変わる中で、すべてのデータや事実に対応することは不可能ですが、組織全体で意味を共有し、共通の目的に向かって行動するための指針を持つことが、成功のカギになります。

狩野:そうですね。意味づけし、共有していく過程で、自らの理解を深めて行動を選択するようになりますよね。組織全体で共通の理解を持ちながら、個々のメンバーが自ら意味を見出し、行動に移すことできる組織って、柔軟で力強いですよね。目指したい一つの理想です。

センスメイキングの活用場面とは

インタビュアー:センスメイキングというのは、組織や個人が不確実な状況で意味を見出し、行動の指針を作るプロセスだと理解しましたが、具体的にどのような場面で活かされるのでしょうか。

手塚:そうですね、ビジネスや組織運営では、予測が難しい状況も多く、何が「正解」なのかは後になって分かることもありますよね。そういった、私たちが日々直面する複雑な状況や不確実な未来に対して、状況を理解し、そこに意味を見出そうとする場面で活用しますね。

狩野:何が正しいか分からない状況の中でも、その場その場で意味を見出して動くことが重要なんですよね。例えば有名な話として、ハンガリー軍の遭難の事例があります。アルプス山脈で遭難した部隊が偶然見つけた地図を頼りに脱出を試みて成功したという話です。後で分かったところによると、その地図は実はアルプス山脈ではなく、全然別の場所であるピレネー山脈のものだったのです。それにも関わらず、彼らはその地図を信じて行動し、結果的に脱出に成功したんです。

インタビュアー:その話はすごく面白いですね。正しい情報がなかったとしても、行動することで成功に繋がるというのは興味深いです。

手塚:究極の状況では、情報の正確さよりも、全員が一つの方向に向かって行動することの方が大切なんです。正しいかどうかが問題ではなく、行動を起こすために皆のベクトルが一致することが、結果的には成功を生むことがあるんですね。

狩野:まさにその通りですね。先ほどの雪山遭難の話では、もしその地図がなかったら、彼らは行動を起こすことができず、救出されなかったかもしれません。センスメイキングの重要な点は、完璧な情報がない中でも、何らかの判断をして行動することです。

インタビュアー:ビジネスの世界でも同じような事例があるのでしょうか?

狩野:そうですね、例えばホンダのアメリカ進出の話がよく出てきます。ホンダが最初にアメリカ市場に参入した時、バイクの販売に苦労したんですが、その後小型バイク市場に適応して成功しました。この成功は、事前に計画を立ててその通りに進めたのではなく、現場の状況を見ながら柔軟に対応していった結果という話です。

手塚:このホンダの例は「創発的戦略」と呼ばれていて、最初から決めた戦略に固執するのではなく、その場その場で状況を見ながらしていくことが成功に繋がったんです。これ、ビジネススクールでもよく紹介されている事例ですね。

狩野:事前にすべてを予測するのは無理なので、現実に直面して、その時々で現実を捉え、意味を見出して動くことが大切ということですよね。

センスメイキングを組織や個人で活用する

インタビュアー:実際に組織や個人では、どのようにセンスメイキングを活用するとよいでしょうか?

狩野:センスメイキングは未来に向かってポジティブに進むために活用できます。例えば、現状を打破したいと考えているとき、事業方針や運営の見直しを行いたいとき、次世代リーダーの育成をしたいときなど、「新しい未来を創りたい」という思いがあるときに有用だと思います。
同時に、例えばM&Aや構造改革など、多くの関係者にとっては意図せずに変化が及ぼされる場面でもセンスメイキングの考え方は取り入れられると良いかと思います。突然巻き込まれることになる社員が、どのようにその変化を捉えるかはその後の展開にとても大きな影響を与えます。なので、丁寧に起こっていることを扱いながら、今の自分たちの立ち位置を捉え直し、それを元に未来をどう作るかを考え、意味づけし、腹落ちさせていくというセンスメイキングのプロセスが必要なのです。

手塚:そうですね。例えば、東日本大震災の後、多くの企業が大きな決断を迫られました。その際に過去の経験を元に「これは私たちの使命だ」と感じて行動を起こした企業も多かったんです。
日本中が津波や原発事故で大混乱している中、ある会社の社長が「3月は無理だけど、4月からは大丈夫だ」と社員に言ったことがすごく印象的でした。社員がその言葉に安心し、前に進む力を得たんです。

インタビュアー:そのリーダーシップの役割も、センスメイキングにおいて大切なんですね。

狩野:リーダーがどう解釈し、チームに方向性を示すかは、不確実な状況になるほどに重要ですよね。正しい答えがなくても、皆が納得し、動き出せるような意味を与えることが求められるのだと感じます。

インタビュアー:日常生活や個人では、センスメイキングをどう活かすと良いかについても教えてください。

手塚:実は、私たちは日常生活の中でも無意識にセンスメイキングを行っています。たとえばキャリア選択の場面では、多くの人が完全にロジカルな判断だけでなく、直感やその時の状況を元に決断していますよね。

狩野:そうですよね。私のキャリア選択を振り返っても常にそうです笑

手塚:ですから、センスメイキングはビジネスの場だけでなく、日常生活でも役立つツールなんです。無意識にやっていることを少し意識的に取り組むだけで、意味づけがもっとクリアになるはずです。

インタビュアー:ありがとうございました!次回はさらに具体的にどのようなプロセスで進めるのかさらに詳しくお聞かせください。

手塚貞治
元日本総研プリンシパル、コンサルタントとして30年近くにわたり経営戦略策定や組織改革を支援。現在は、國學院大學経済学部教授及び立教大学大学院ビジネススクール兼任講師として経営人財育成に従事。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。主な著書に『武器としての戦略フレームワーク』『経営戦略の基本』(以上、日本実業出版社)、『ジュニアボード・マネジメント』(PHP研究所)等。

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