挑戦が根づく組織の『土壌』を耕す方法 <前編>

dojou

多くの組織が「挑戦する人材を育てたい」「主体的に動く文化を作りたい」と願いながらも、現場では「様子見」「同調圧力」「やっても無駄」といった空気が支配し、思ったような変化が生まれないことに悩んでいます。

その背景には、「種=挑戦するアイデアや人材」は存在しても、それを育てるための「土壌」が整っていないという問題があるのではないでしょうか。

ここでいう「土壌」とは、単なる制度やツールのことではありません。組織内の目に見えない前提や関係性、安心して発言できるかどうかの空気感、互いに期待し合える信頼関係、失敗を許容する姿勢といった、文化や風土を指します。

研修をしても、制度を整えても、思うように行動が変わらない。挑戦を促すスローガンを掲げても、どこか空回りしてしまう。そんなとき、私は「土壌」という言葉を思い浮かべます。

今回は、2回に分けて挑戦が根づく組織が持つ文化や風土を「土壌」という比喩を手がかりに探っていきます。

目次

挑戦が根づく組織に共通する「土の成分」

豊かな土壌とは、さまざまな要素がバランスよく混ざり合い、絶えず呼吸しながら変化しているもの。組織文化や風土も同じです。「挑戦が根づく組織」に共通する“土の成分”を4つに整理してみます。

1つ目は、心理的安全性。どんな意見も「否定されない」「責められない」と思える安心感がなければ、人は挑戦というリスクを取れません。

2つ目は、目的と価値の共有。なぜ挑戦するのか、自分たちはどこに向かうのか。それが腹落ちしていないと、行動には火がつきません。

3つ目は、余白と柔軟性。日々の業務に追われ、全てが管理されている環境では、そもそも挑戦のスペースがありません。

そして4つ目は、リーダーの姿勢。リーダーが何を言うかではなく、どう行動しているか。それが土を耕す力になります。

成分①:心理的安全性 — 安心して「違い」を出せる空気

最初の成分は、心理的安全性(Psychological Safety)です。これは、Googleのチーム研究でも高業績チームの鍵として注目されました。心理的安全性とは、「この場で発言しても、自分の存在が否定されることはない」「失敗しても責められない」と感じられる状態のこと。

挑戦とは、未知に踏み出すこと。そこには必ずリスクや失敗の可能性が伴います。そのとき、周囲の目が気になって萎縮するような空気では、人は挑戦というリスクを取れません。

成分②:目的と価値観の共有 — なぜ挑戦するのかを語れる組織

次に必要なのは、組織としての「目的」と、そこに向かう価値観の共有です。
挑戦には、エネルギーがいります。日々の業務をこなしながら、あえて新しい行動を起こすには、「なぜ、これをやるのか?」という納得感が不可欠です。なぜ挑戦するのか、自分たちはどこに向かうのか。それが腹落ちしていないと、行動には火がつきません。

ここで重要なのは、“明文化されたスローガン”ではなく、“語られている物語”です。目的や価値観が日常の対話や判断の中で繰り返し語られ、腹落ちしているかどうか。「意味づけの共有」が必要になります。

成分③:余白と柔軟性 — 畑を耕し、余地をつくる

3つ目の成分は、余白と柔軟性です。日々の業務に追われ、全てが管理されている環境では、そもそも挑戦のスペースがありません。

・新しいことに時間を割ける余白
・役割を越境することへの許容
・小さな試行錯誤を歓迎する姿勢

創造性が育つ組織は「リーダーが解を与える場」ではなく、「実験的な試行錯誤を支える場」だと示しています。トライアンドエラーが許される環境ややマインドセットの余地がなければ、人は新しい芽を出すことができません。

成分④:リーダーの姿勢 — 土壌を耕し続ける存在

最後の成分は、リーダー自身の姿勢とふるまいです。文化は、言葉ではなく行動で伝わります。どれほど「挑戦を歓迎する」と宣言しても、実際には失敗を咎め、上下関係が強く、アイデアを却下してばかりでは、土壌は固まり、誰も挑戦しなくなります。

リーダーがまず自らの学びを語り、自分の限界を開示し、他者の声に耳を傾ける。そうしたふるまいが、組織の“土壌”を耕す力になります。

これらはそれぞれが独立しているようでいて、相互に影響し合っています。心理的安全性が高まると、目的の共有も進み、余白の活用も生まれやすくなります。そして、その循環をリーダーがどう支えるかが決定的な要素となるのです。


多くの企業では、イノベーションや挑戦というと、「どんな新しいアイデアを出すか?」「どんな施策を導入するか?」に意識が向きがちです。しかし、それらはすべて“種”にすぎません。種が良くても、土が悪ければ芽は出ません。芽が出ても、根が張れなければすぐに枯れてしまいます。むしろ問うべきは、

「私たちの組織の“土壌”は、挑戦の芽を受け止める状態になっているか?」

ということです。次回は、これらの成分を「どう耕すのか?」というプロセスの視点から掘り下げていきます。

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